[2024/7/13]

僕のメンバー募集の記事には2件の応募があった。

19才のドラム女子、Mさん。18才のギター男子、Kくん。二人とも僕のメンバー募集に共鳴してくれたようで、話はトントン拍子に進み、僕たちは実際に会ってみることになった。いわゆる「顔合わせ」である。

埼玉県の大宮駅。緊張しながら待っていると、まずMさんが現れた。

「高橋さんですか?Mです。よろしくお願いします」

黒髪ショートの可愛い女の子。目がクリッ(を通り越してギョロ)としていて、芸能人でいうと、さかなクン似。ギョギョギョ。

そして、お次に現れたKくんが強烈だった。

「うーっす。高橋くんとMちゃんですか?Kでーっす。ヨロシク!」

矢沢永吉ばりのあいさつで登場したKくんは、真っ赤なつなぎを着ていて、そのつなぎにはたくさんのワッペンが縫い付けられていた。

「とりあえず、あそこでしゃべろーぜ!」

Kくんを先頭に僕らはマクドナルドに入った。

※※※

Kくん「俺はさ、ロックンロールが大好きなんだよ。特にブルーハーツ。ブルーハーツが大好きなの」

Mさん「私はバンプとかが好きかな。バンプオブチキン。高橋くんは何が好き?」

高橋「ぼ、ぼ、僕は、ビ、ビートルズ!」

Kくん「お!ビートルズ、いいね~。やっぱロックンロールほど気持ちいいことはないよ。俺、女ともたくさん付き合ったし、脱法ハーブもやったけど、やっぱロックンロールには敵わねぇ」

Mさん&高橋「だ、脱法ハーブ!?」

Kくん「おう!ところで高橋はなんでバンド組もうと思ったの?」

高橋「ぼ、僕は、ま、前田敦子に…」

Kくん「え!?何!?聞こえない!」

高橋「いや、なんでもない。ぼ、僕は、いつか自分のオリジナル曲をやってみたくて…」

Kくん&Mさん「良いじゃん!」

高橋「で、でも…」

Kくん「じゃあさ、一週間後、また会おーぜ!その時までに高橋、お前、曲作ってこいよ!」

高橋「えーー!?」

Kくん「じゃ、そゆことで!」

Mさん「楽しみにしてるよ!」

高橋「えーー!?」

※※※

地獄の一週間が始まった。「オリジナル曲をやりたい」なんて言ってはみたものの、僕は曲なんて作ったことがなかった。そもそも作り方がわからない。一応、ギターをポロポロやってはみるけれど、なんにも降りてこない。

3日経ち、5日経ち、僕は追いつめられていった。夜も眠れない。自分で言い出したこと。せっかく集まってくれたメンバー。ガッカリさせるわけにはいかない。

仕方がないので、僕は自分の気持ちを書くことにした。正直な今の気持ち。引きこもっていて、毎日あんまり面白くなくて、女の子とも話せなくて、でも生きていくしかなくて…そんな気持ち。

一週間が経ち、ついに約束の日。みんなでスタジオに入り、そこで僕のオリジナル曲お披露目会ということになっていた。

エレキをギターケースに入れ、背中に背負う。ついに今日、俺は自分の作ったオリジナル曲を人に聴かせるんだ。どうなるだろう。どうなってしまうんだろう。不安と緊張に押しつぶされそうになりながらも、僕は「メロディー」というタイトルをつけたオリジナル曲と一緒に高崎線に乗り込んだ。

つづく…。