[2024/8/31]

前回のつづき。

「彼女のいない者同士、バンドを組み、女の子への届かぬ想いを歌いませんか?バンド名はチョンガーズ。チョンガーとは独身男性って意味です。メール待ってます」

僕はインターネットの掲示板にそんな書き込みをした。で、その書き込みに反応し、メールをくれたのが若松くん。話も合うし、音楽の趣味も合う。がしかし、若松くんは彼女持ちだった!しかも、まさかの同棲中!

※※※

若松くんが運転する車の後ろを僕も自分の車でついて行った。

「僕の彼女、ブッ飛んだ子なんで、全然気ぃ使わないでくださいね」

若松くんは僕にそう言った。「ブッ飛んだ子」って言うくらいだから、きっとマツコデラックスみたいなのが出てくるんだろう。僕はそう思ってた。

二人が暮らしているのは小さなアパートだった。

「ここが僕の部屋です」

若松くんはドアノブに手をかけ、扉を開いた。緊張の瞬間。

「いらっしゃい~、どうぞ~」

出てきた女の子は……めーーーーっちゃくちゃ可愛い女の子だった。何がブッ飛んだ子だよ。何がマツコデラックスだよ。ふざけんな。

「はじめまして。チヒロです。よろしくお願いします」

天使のような微笑み。その瞬間、なぜだか僕は死にたくなった(笑)。真っ黒な自己嫌悪マントが僕を頭からすっぽりと覆った。

正直もう帰りたかったけど、そういうわけにもいかない。僕はリビングに通された。壁にはカートコバーンのポスター。フワフワな猫もいた。隣の部屋に目をやると、二人の布団がひいてある。僕は再度死にたくなった(笑)

「3人でボードゲームやりませんか?」

若松くんはそう言った。

「そんなもん、やるかボケ。ほな帰るわ」

な~んて言える度胸はサラサラなく、「い、いいですね~。ぜひやりましょ~」ってな具合だ。

僕らはボードゲームで遊んだ。ちっとも楽しくなかった。目の前でイチャつく二人。たまにアイコンタクトを取り合い、微笑み合う二人。それを死んだ目で見つめる陰キャ男性1名。

何が楽しいっていうんだい?教えてくれよ。何が楽しいっていうんだい?

ボードゲームの最中、携帯電話が鳴る。母ちゃんからのLINEだ。

「今日の夕飯はお前の好きなハンバーグだよ。早く帰ってきな」

更に死にたくなる(笑)。俺に優しくしてくれる女性は母ちゃんだけか…。

ボードゲームを終え、僕はさっさと帰ったよ。「また来てくださいね!」二人はそう言った。「二度と来るかボケ」と言える度胸はやはりなく、「また来ます~。アハハ…」ってな感じ。でも心の中では中指を立てて「あばよ!」って感じだよ。柳沢慎吾状態だよ。

帰りの車中、悲しさを通り越して、怒りが込み上げてきたよ。思いつく限りの汚い言葉を叫びながら帰った。声はガラガラ。喉で血の味がしたよ。

なんかさ、二人の愛の前ではさ、アイドルの写真集を見てニヤニヤしたり、いかがわしい動画を見てニヤニヤしてる自分がさ、小さい小さい人間に思えてきてさ、バカらしくなったんだよね。

一番見たくなかったもの。見ないようにしてきたもの。自分の部屋に一人でいれば見なくて済んだもの。全部見ちゃった。今日一日で。

あれから、アイツとあの娘はどうなったんだろう。知らん。どーでもいい。でもやっぱりちょっと気になる。僕の知らない世界。

※※※

若松くん。あれから音楽はやっていますか?可愛い彼女とは、その後どうですか?

僕ですか?僕は相変わらずですよ。相変わらずのチョンガーですよ。

でもね、ただのチョンガーじゃないよ。考えるチョンガーだよ。夢見るチョンガーだよ。

いつか起こるかもしれないミラクルを夢見て、どうにかこうにか踏ん張ってるよ。

人生これからだよね?たぶん。きっと。そうだよ。これからだよ。

お元気ですか?