[2024/11/09]

『卒業式では泣かなかったんだ』


人生に後悔はつきものですかね。なるべく後悔はしたくないけれど。んだけど、後悔のない人生なんて味気ない気もしたりして。
そんな中でも、とりわけ、青春時代の後悔はいつまでも、しつこく心にこびりついてたり。僕はそうです。いまだに夢に見ます。
今回は中学時代の話をうじうじと……。


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中学校生活は地獄だった。でもなぜか学校には休まず通った。意地なのかな?それとも単に他に選択肢がなかった?今となっては、わからん。
んでね、僕の通ってた中学校には地域相談員のおばちゃんが頻繁に出入りしてて。今回はその人の話なんだけど。


渡辺さんというおばちゃんがいた。校内を歩いていると、よくすれ違う。僕を見つけると笑顔で近寄ってきて「高橋くん、おはよう」「高橋くん、元気?」って。あの人は何者なんだろうって。いつも思ってた。


地域相談員っていうんだね。今でも何となく顔が浮かぶよ。黒髪のショートカット。品がある人。当時で……50代とかなのかなぁ。


自意識過剰かもしれないけど、ほんと、僕のところばっかり来てくれるんだよ。いっつも声をかけてくれるの。僕も僕で何か話せばよかったんだけど、そこは思春期真っ只中。それに当時の僕は完全に心を閉ざしてたし。


そんな渡辺さんに見守られながら、毎日心をすり減らして学校に通った。下を向いて歩いた。休み時間はコンパスの針で机を削り、モナリザを描いて過ごした。部活にも休まず出た。野球部。本当はピッチャーがやりたかったけど、サードをやらされた。来る日も来る日も耐えた。そして、3年間の刑期を終えた。


卒業式では泣かなかった。泣くわけねーじゃん。思い入れもクソもないんだから。せーせーしたよ。これでサイナラ。みなさん、さよーならだ。


んで、卒業式の帰り道。一人で歩いてたら、うしろから駆け足で足音が近づいてきたんだよね。振り返ると渡辺さんだった。「よかった。間に合った」渡辺さんは息を切らしながら、そう言った。しばし沈黙のあと、渡辺さんはこう切り出した。


「高橋くん、中学校生活は楽しかった?」


僕はドキッとしたよ。一番触れられたくない場所。何かすべて見透かされてるような気がしたよ。


その時にね、僕はとっさに嘘をついた。嘘というか、強がり?「はい、楽しかったですよ」って。そしたら渡辺さん、一瞬寂しそうな顔をして「そう……それならよかった」って。


それから、しばらくして、渡辺さんから一通の手紙が届いた。全文をここに載せようと思う。


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桜は満開なのに、まだ寒い日が続いていますね。私は毎朝、中学校近くの交差点で見回りや、中学校内を巡回していたおばさんです。


高橋君は今、高校生活が始まり、希望と不安の中、緊張の日々を送っているのではないでしょうか。
おばさんは、高橋君を見ていると、中学時代の自分を見ているような気になりました。話す機会はあまりなかったけれど、高橋君のことはいつも気に掛けていました。


おばさんは思うのです。自分の為じゃなく、人や社会・何かの為に頑張っていると自然と自分が強くなり勇気が持てるようになる。
頑張っている姿を必ず見ている人がいる。そして良い人が自分に寄ってくると・・・(自然と寄ってくる)


自分の人生を良くするも悪くするも自分次第です。
これから先、人生で進むべき道に迷ったり、将来に対する不安を感じることがあるかもしれませんが、自分を信じてチャレンジ精神で勇気を持ち、人生に立ち向かって下さい。
そして、先祖様や親を大切にして下さい。


おばさんも応援しています。頑張れ高橋君!


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今読み返すと、グッとくるというか、ジーンとしてしまいます。でも当時、僕はお返事を出さなかった。というか、出せなかった。中学卒業後、僕は高校をすぐに辞めてしまった。なので、何を書けばいいのかわからなかった。


返事は出さなかったけれど、いつまでも捨てられずにいるこの手紙。読み返す度に青春のほろ苦さが甦ってくる。と同時に後悔も。


あの時。卒業式の帰り道。「中学校生活は楽しかった?」と聞いてくれた渡辺さんに対して、素直にSOSを出していたら、どうなっていただろう。
「辛かった」「こんなはずじゃなかった」「もっと楽しく青春を過ごしたかった」って。


僕が強がって「はい、楽しかったですよ」と嘘をついた時、渡辺さんはちょっと寂しそうな顔をした(気がした)。
もしかしたら、渡辺さんは僕に本音をぶつけてほしかったのかな、と。今になって、そんなことをふと思ったりする。


後悔先に立たず……ですね。


ま、しゃーないですね。これからですね。渡辺さんだったり、それから、あの頃の自分をがっかりさせないような大人になりたいものです。難しいけど。ちょっとずつマイペースに頑張っていこうと思いまーす。