[2024/8/24]
『人生で一番悲しかった夜 ~チョンガーズ結成前夜~』
チョンガーズ……。
僕が組もうと思っていたバンドの名前である。
「チョンガー」っていうのは、独身男性って意味。要は、彼女がいない男で集まってバンドを組み、女の子への届かぬ想いをうじうじと歌おう…というコンセプトであった。割と最近の話だよ。数年前とか、そんくらい。
10代の頃、バンドが組みたくて、でも友達がいなくて、インターネットの力を借りた。バンドメンバー募集掲示板だ。チョンガーズ結成にあたって、また同じ掲示板を頼ることにした。今回はコンセプトがハッキリしてたからね。性別は男子限定。条件は彼女がいないこと。音楽の趣味が合えば尚良し。そんな感じ。
僕のメンバー募集記事にメッセージをくれたのは、若松くんという男の子だったよ。同い年…だったと思う。ギターと、それからベースも弾けて、音楽の好みもすごく近かった。
「たくさんのメンバー募集の中で、高橋さんの記事は異彩を放ってました。この人しかいないと思いました」だって。そんなこと言われたら嫌な気はしないよね。さっそく僕らは会うことにしたんだ。
僕が住んでいるのはG市。若松くんはF市。二人の中間地点、K市のココスに僕らは集まった。ネットの人と会うなんて久しぶりだったから、すごく緊張したんだけどね、若松くん、いいやつでさ、僕の話をニコニコ聞いてくれるんだ。
高橋「こないださ、朝起きたら、口の中にハエがいたんですよ~」
若松「マジっすか?アハハハ!」
ってな具合。
話も合うし、音楽の趣味も合う。こりゃあメンバー確定だな。そう思った。
高橋「あのさ、若松くん。ぜひチョンガーズのメンバーになってくださいよ」
若松「え、ぜひぜひ、お願いします!」
高橋「ありがとうございます!じゃあ、あとはドラムを見つけたいですね~」
若松「あ、それなんですけど、知り合いにドラムやってる子がいて…」
高橋「な~んだ、話が早いじゃないですか!」
若松「そ、それが…」
高橋「ん?どうかしたんですか?」
若松「その子、今、ウチにいるんですよ」
高橋「???」
若松「ドラムやってるの、僕の彼女なんです。同棲してるんです。今、僕の家にいます。会ってみませんか?ウチに来てみませんか?」
高橋「!!!」
※※※
うじうじ読者の皆さん、この時の僕の表情を想像してみてほしい。ショック、ショック、大ショックだよ。ムンクの叫びなんてもんじゃないよ。穴という穴が全部開いたよ。
高橋「か、か、か、彼女いたんですか!?」
若松「はい。ごめんなさい。黙ってて」
高橋「し、し、し、しかも同棲!?」
若松「はい。すみません。チョンガーズのコンセプトに合わないですよね」
高橋「・・・」
ショックだったよ。悔しいっていうか、悲しいっていうか、裏切られた気分っていうか。ま、モテない自分が悪いだけなんだけどさ。
若松「やっぱりダメですよね…」
高橋「……いや、行くよ。若松くんの家」
若松「え!?いいんですか!?」
高橋「うん。行ってみる。若松くんの彼女に会ってみる」
僕の頭の中は、まだショックで茫然としていたけれど、行ってみることにしたんだよ。若松くんチ。なんか、このまま引き下がるのは悔しかったし、社会勉強になるかな、って。そして何より、若松くんの彼女の顔を見てやろうと思ったんだ。
そうして僕は、二人の愛の巣に向かうことにした。
つづく……。